室岡 太一 HOME研究テーマ教材研究業績

RESEARCH THEME ④

新たなライフスタイル

人の価値観も、暮らし方も、一様ではない。
何を重視し、どんな体験を得られるかは、世代や住む場所、家庭の状況によって違ってくる。

都市や交通の計画は、つい「平均的な人」を思い描いてしまいます。けれども実際には、人の 価値観や暮らし方は多様で、同じサービスに触れても、感じ方や求めるものは人によって異なります。 このテーマでは、「買い物で何を重視するか」「子どもがどんな体験を得られているか」という身近な題材から、 暮らしの多様性とそこに潜む偏りを、全国データで捉えていきます。

時間 過去 通勤・対面が基本 現在 オンラインで完結 これから AI・分散、場所を選ばず
情報化とともに、暮らし方は移り変わってきた。通勤・対面 → オンライン → AI・分散へ。技術の広がりが、働き方も住まい方も、変えていきます。
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買い物で「何を重視するか」は、人によって違う

まず、日常の買い物です。全国を対象としたWebアンケートをもとに,「食料品」や「普段着」を買う店・サイトに対して 何を重視しているか(価格・品質・アクセス・ネットの使いやすさなど12項目)を分析しました。すると、重視することは 人によって大きく異なることが分かりました。たとえば住む地域で見ると、地方都市圏に住む人は 店までのアクセス(駐車場の停めやすさなど)を重視する一方、三大都市圏に住む人は 商品の質や好みを重視する傾向が見られました。 論文|室岡太一・岡野圭吾・武田陸・谷口守(2022)個人特性による買い物重視項目の差異 —時代・年代・世代に着目して—, 土木学会論文集D3(土木計画学), Vol.78, No.6, II_45–II_55.

年代による違いもはっきり出ました。若い世代ほど価格の安さを重視し、上の世代ほど「商品の質」といった取扱商品へのこだわりが強い傾向です。 そしてもう一つ——ネット通販(EC)が広がったにもかかわらず、現代のほうが実店舗の利便性を重視する結果が得られました。 情報化が進んでも、人はリアルな場の使いやすさを手放さない。だからこそ、購買環境を「近くに店があるか」だけで測るのではなく、 誰が何を求めているかを踏まえて、実空間(まち)をどう整えるかが問われます。

分析の対象:時代(現在・10年前・20年前)×年代×世代のコホート図。団塊世代・新人類世代・バブル世代・団塊ジュニア世代・さとり世代
「個人特性」を捉える枠組み(世代コホート)。時代(現在・10年前・20年前)と年代を組み合わせ、団塊世代〜さとり世代という世代の違いから、買い物で重視することの差を読み解きます。 出典:室岡・岡野・武田・谷口(2022)土木学会論文集D3, 図-2。

情報化が進んでも、人はリアルな場の使いやすさを求める。実空間(まち)を整えることは、これからも欠かせない。

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子どもの「体験」にも、見えにくい格差がある

暮らしの多様性は、次の世代の育ち方にもつながります。日本では教育の機会は制度的に保障されている一方、 学校の外での過ごし方は家庭環境に委ねられ、「体験格差」が生じることが指摘されてきました。 そこで、全国約19万人を対象とする社会生活基本調査(2021年)の個票を用い、 18歳以下の小中高生 14,801人について、学校外のスポーツや趣味・娯楽といった余暇的活動の実施状況を全国的に調べました。 論文|松浦海斗・室岡太一・宮下和士・谷口守(2025)全国把握を通じた子どもの体験格差の課題 —余暇的活動の実施状況に着目して—, 実践政策学, Vol.11, No.2, pp.243–253.

結果、世帯年収が低いほど、活動をまったく行っていない子どもが多くなる傾向が確認されました。 1年を通して余暇的活動をしていない子どもは、スポーツで全体の約2割、趣味・娯楽で1割弱。 しかも「まったくやらない子」と「ほぼ毎日何かをやっている子」という二極で、所得による差がとくに大きく現れます。 活動の多様性(種類の数)で見ると、趣味・娯楽は都市規模と世帯年収の両面で格差が生じていました。

趣味・娯楽の活動別 所得間ギャップ×地域間ギャップ散布図。キャンプは所得格差が大きく、水族館などの見物やコンサート音楽鑑賞は地域格差が大きい
子どもの趣味・娯楽にみる「所得の格差」と「地域の格差」(活動別)。横軸は世帯年収による差、縦軸は都市規模による差。右にあるほど所得の格差が、上にあるほど地域の格差が大きい活動です。 出典:松浦・室岡・宮下・谷口(2025)実践政策学, Vol.11, No.2, 図7。

どの活動で格差が大きいかも、この図から見えてきます。趣味・娯楽のなかでも、キャンプのように費用や道具のかかる活動は 世帯年収による格差が大きく(図の右)、遊園地・動植物園・水族館などの見物コンサートでの音楽鑑賞のように、施設や機会が地域に偏る活動は都市規模による格差が大きい(図の上)。 その一方で、スマホ・ゲーム機によるゲームなどデジタルな活動は所得・地域の差が小さく、多くの子どもが楽しんでいました。 体験の「中身」によって、格差の出方そのものが違うのです。

このテーマで扱うのは、買い物や子どもの体験だけではありません。コロナ禍を機に住まいを移した人の意識の変化や、 フレキシブルオフィスに代表される働き方の多様化など、変わりゆく暮らしと価値観を幅広く対象にしています。そしてより広くは、AIやインターネットのような汎用技術が、都市や暮らしとどう関わっていくかにも関心を持っています。 関連|武田・室岡・谷口(2023)コロナ転居者のメンタリティの解明, 土木学会論文集D3/小林・室岡・谷口(2023)フレキシブルオフィスの利用・利用意向の要因分析, 都市計画論文集。

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画一的な計画では、多様な暮らしを捉えきれない

買い物で重視することも、子どもが得られる体験も、人によって・地域によって・家庭によって異なります。 だからこそ、一律・画一的な計画やサービスでは、多様な暮らしのすべてを捉えることはできません。 「新たなライフスタイル」を見据えるとは、平均像の裏側にある違いや偏りに目を向け、 それぞれの人・地域に合った選択肢をどう用意するかを考えることだと、これらの研究は示しています。

出典・参考
室岡太一・岡野圭吾・武田陸・谷口守(2022)「個人特性による買い物重視項目の差異 —時代・年代・世代に着目して—」土木学会論文集D3(土木計画学), Vol.78, No.6, II_45–II_55.
松浦海斗・室岡太一・宮下和士・谷口守(2025)「全国把握を通じた子どもの体験格差の課題 —余暇的活動の実施状況に着目して—」実践政策学, Vol.11, No.2, pp.243–253.
武田・室岡・谷口(2023)「コロナ転居者のメンタリティの解明」土木学会論文集D3.(関連)
小林・室岡・谷口(2023)「フレキシブルオフィスの利用・利用意向の要因分析」都市計画論文集.(関連)