室岡 太一 HOME研究テーマ教材研究業績

RESEARCH THEME ①

居住地環境の向上

「歩いていけるまち」を、人が実際に「歩いていくまち」へ。
徒歩圏のアクセシビリティと生活の質を、実際の人の動きから捉え直す。

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x-minute city という考え方

x-minute city は、暮らしに必要な施設へ自宅から徒歩や自転車で数分以内に到達できる都市構造をめざす考え方です。 圏域の目安は国や都市でさまざまで、バンクーバーは5分、メルボルンは10分、パリは15分、ポートランドは20分といった目標が掲げられています。

ただ——実際に施設へのアクセシビリティが担保されても、人が徒歩・自転車を選ぶとは限りません。 この「行けること」と「行くこと」のギャップが、本テーマの出発点です。

徒歩・自転車で15分の圏内 自宅 買う 食料品・日用品・商業 働く 仕事・拠点 健康 医療・運動 憩い 公園・緑・広場 交流 地域・コミュニティ 学ぶ 学校・図書館
x-minute city(15分都市)の考え方。自宅を中心に、日々の用事が徒歩・自転車の圏内に収まる暮らし。 概念図は筆者作成(15分都市の考え方を参考。参考:Paris en Commun/RESISTIRÉ project “Paris as a 15-minute city”, resistire-project.eu)。
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近くても、7割超が車

まず、施設が本当に近い人たちを見てみます。国際誌 Transportation Research Part A に載せた研究では、 買い物・医療・金融のすべてに 徒歩15分以内で行ける居住者に注目しました。ところが、そのうち 7割超が、なお車を使っていた。近接だけでは、歩行は生まれません。 ここで一つの問いが浮かびます——「歩いていこう」と思える時間は、人によって違うのではないか? 論文|Murooka, Kumeyama & Taniguchi (2025) Differences in choice of transportation mode by residents of 15-minute cities…, Transportation Research Part A, 196, 104452.

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「歩いていこうと思う範囲」で何が効くか

そこで、自分が「歩いていこうと思う」範囲(徒歩許容時間)の内側に施設がある人だけに絞り、 車を使う要因を分析しました。すると、施設までの徒歩到達時間が 11分以上になると、自動車が選ばれやすくなること、 そして 人口密度が効くこと(おおむね41人/ha以上で徒歩・自転車が優勢に。DID人口の維持が鍵)が分かりました。 一方で、環境や健康への意識は効きませんでした——「環境にいい・健康にいい」と分かっていても、それだけでは車利用は減らない、というわけです。 論文|室岡・久米山・谷口(2024)なぜ歩いていけるにもかかわらず自動車を利用するのか, 都市計画論文集, Vol.59, No.3, pp.836–843.

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現場で使える評価ツールを提案する

では、こうした知見を現場にどう活かすか。居住誘導区域をはじめとする現行施策の「政策と実践」に寄与する評価ツールとして、 x-minute BG(Box Graph)x-minute HM(Heat Map)を提案しました。 BGは市全体で「歩いて行けるか(Reach)×実際に歩いているか(Act)」を一枚で捉える図、HMは実際に歩き・自転車移動が起きている場所を地図に描く図です。データには緯度経度つきのパーソントリップ調査を使います。 論文|室岡・堀川・谷口(2025)居住誘導区域における x-minute city の評価指標と可視化ツールの提案, 土木学会論文集D3.

横須賀市 Act-15 100% Reach-15 100% 100% 1-(Act-15) (1-Reach-15) 39% 97% 3% 61%
横須賀市の 15-minute BG(Box Graph)。横軸が「歩いて行ける(Reach-15)」、縦軸が「実際に歩く(Act-15)」。 居住誘導区域では、歩いて行ける人が約97%いても(図中 Reach-15)、箱の大半は“行けるのに車”の右下に入ります。 出典:室岡・堀川・谷口(2025, 土木学会論文集D3)図-5の掲載値をもとに筆者作成。
横須賀市の15-minute HM。上が徒歩・自転車、下が自動車。駅まわりと高台のニュータウンで姿が異なる
横須賀市の 15-minute HM(Heat Map)。上が徒歩・自転車、下が自動車で実際に動いている量。 横須賀中央・馬堀海岸・津久井浜などの駅まわりでは歩き・自転車が成立し、京急久里浜駅周辺や吉井地区のような、モータリゼーション後に開発されたニュータウンでは車が優勢。同じ市でも地区で姿が分かれます。 出典:室岡・堀川・谷口(2025)土木学会論文集D3, 図-7。

環境が「歩ける」かを測り、実際に「歩いている」かを見る。ふたつを重ねて、地区ごとに手を打つ。

環境を整えて終わりにせず、実際の人の動きをモニタリングしながら地区ごとに手を打つ。「歩いていける」都市から、人が本当に「歩いていく」都市へ。 これは2024年の「立適+」が掲げる「まちづくりの健康診断」とも、自然につながっていきます。

出典・参考
室岡太一・堀川倖・谷口守(2025)「居住誘導区域における x-minute city の評価指標と可視化ツールの提案」土木学会論文集D3.(15-minute HM の図、および BG/HM の手法)
Taichi Murooka, Kanta Kumeyama, Mamoru Taniguchi (2025) “Differences in choice of transportation mode by residents of 15-minute cities according to destination amenities: Break away from car dominant city,” Transportation Research Part A, Vol.196, 104452.
室岡太一・久米山幹太・谷口守(2024)「なぜ歩いていけるにもかかわらず自動車を利用するのか —歩いていく x-minute city の実現に向けて—」都市計画論文集, Vol.59, No.3, pp.836–843.
概念図:筆者作成。15分都市の考え方を参考(Paris en Commun/RESISTIRÉ project, Paris as a 15-minute city)。