都市計画のデータ分析(全20回)
データ分析の失敗例 ②
実行と運用の失敗
-課題設定は正しかったのに、なぜ結果が使われないのか-
第 19 回 第Ⅳ部|時系列・応用
課題設定が正しくても、実行・運用のつまずきで
分析が無駄になる —— その型を見抜けるようになる
前回との関係
① 始める前の失敗=課題設定(第18回)/② 始めた後の失敗=実行・運用(今回)
なぜ重要か
設計が正しくても、走らせ方と使われ方を誤ると、投じた時間とデータが回収できないから
よくある勘違い 「良い問いを立てれば、あとは手を動かすだけ」。ところが実務でも研究でも、失敗の多くは手を動かし始めた後に生まれる。今日はその代表例を、実務と研究から1つずつ見ていく。
まず、別業界の話から
あるメーカーが「コピー機のリース収益を最大化したい」と考え、分析から1台を長く使うほど利益が伸びると分かって買い替えサイクルを延ばした。収益は改善。—— ところが社内の中古販売部門に流れる機体が激減し、中古事業が立ち行かなくなった。
では、都市計画で同じ構造が起きるとしたら?
例:ある市が「施設カバー率」を上げるため郊外に施設を追加指定。カバー率は改善した。—— この先、何が起きる?
▮▮ 考えてみよう ▮▮ 次に進む前に、少し考えてみよう。
起きたこと カバー率は上がったが、住民の移動距離が伸びて自動車分担率が上昇。市が本当に目指したのは「歩いて暮らせるまち」。部分指標の最適化が、全体目標を壊した。
共通する構造
「リース収益」も「カバー率」も、測りやすい部分指標。それを上げること自体が目的になり、上位の目的から切り離された。
処方箋
指標の上に「本当は何を良くしたいか」を1つ置き、動かす前に全体目標と同じ向きかを確かめる。
= 指標の自己目的化。「数字が良くなった」と「目的が達成された」は、別のこと。
よくある研究の進め方
「歩行環境と外出頻度の関係を調べたい」。問いは良い。そこでまずアンケートを設計して配布し、数百件を回収した。いよいよ集計 —— の段で、外出頻度を年齢層・世帯構成別に見たいのにその変数を聞いていなかったと気づく。しかも高齢層のサンプルが少なく、クロス集計に耐えない。
この研究は、どこで間違えたのだろう?
分析はまだ1行も走らせていないのに、もうやり直せない。何が抜けていた?
▮▮ 考えてみよう ▮▮ 次に進む前に、原因と、自分ならどうするかを考えてみよう。
原因 結論をどんな図・表で示すかを決める前に調査票を作った。だからキー変数の欠落とサンプル配分の偏りが、回収してから発覚した。データは取り直せない。
処方箋 —— 分析シートを先に作る
結果のダミー表・ダミー図を先に描く。空欄の表を作れば、必要な変数と各セルに要る件数が調査前に見える。
これは何の力か
結果への想像力。完成形から逆算していま集めるデータを決める。第18回の「問いの設計」を取得直前まで具体化する作業。
合言葉:「先に空の表を描く」。埋められない表があるなら、その調査票はまだ完成していない。
① データの実力不足 いざ取ってみたら、使える行が思ったより少ない(欠損・粒度・期間)。本番の前に少量を試し取りして、分析に耐えるか確かめておく。
② 棚ざらしのダッシュボード 作った直後は見られても、更新体制と使う場面を決めていないと放置される。「誰が・いつ・何の判断に使うか」を先に決める。
③ 再現性・透明性の欠如 手順メモがなく、数か月後に同じ数字を再現できない。各回Workの「③再現手順メモ」は、この失敗への備え。
プロンプト例 1 —— 指標の落とし穴を洗い出す
「この施策の評価指標を挙げて、それぞれ『上げると上位目的に反する副作用』がないか列挙して。部分最適になりやすい指標に印をつけて」
プロンプト例 2 —— 調査前にダミー表を作る
「この問いに答えるための結果図・結果表の“空のひな形”を作って。各表に必要な変数と、セルごとに最低何件必要かも書き出して」
※ AIの出力はたたき台。指標の副作用も必要件数も、最後は自分の目的に照らして判断し、別の方法で検算する。
① 始める前(第18回)で問いを正し、
② 始めた後(今回)で部分最適・調査設計・実効性・再現性を守る。
今日の要点
指標の自己目的化を疑う/結果のダミー表を先に描く/実力・実効性・再現性を運用で確かめる
次回(第20回)
総集編:研究ワークフローとAI —— 19の手法を1つの研究に組み立てる
読む資料(無償公開・国交省サイトで資料名を検索)
『立地適正化計画の手引き【基本編】』国土交通省 都市局 都市計画課, 令和7年4月改訂の評価・モニタリングの章、または別冊『立地適正化計画の目標・KPI事例集』(同課)。KPI・評価指標が載る箇所から指標を1つ選ぶ。
基本課題
選んだ指標について、それを上げること自体が目的化する(指標の自己目的化)と、どんな実行・運用の失敗が起こりうるかを批判的にレビューしてみないか。部分最適が全体目標を壊す例(例:カバー率だけ追うと施設が分散し移動距離が伸びる)を自分の言葉で1つ挙げよう。
発展課題
「この指標がそのまま独り歩きしたら、誰が・どう困るか」を1文で。加えて、失敗しないため事前に何を決めておくか(モニタリング体制・再現手順)を一言。
出典:国土交通省 都市局 都市計画課『立地適正化計画の手引き【基本編】』令和7年4月改訂/別冊『立地適正化計画の目標・KPI事例集』。進め方(全回共通):①問いはまず自分で考える/②AIの出力は別の方法で検算し再現性を確かめる/③Excelは数式・コードは # でメモを残す/④「作る」で終わらせず問いへの答えまで自分で出す