都市計画のデータ分析(全20回)

データ分析の失敗例①

- 課題設定の失敗 -

第 18 回 第Ⅳ部|時系列・応用

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今日のゴール

「意思決定のために分析している」という意識を軸に、
課題設定でつまずく失敗を見抜けるようになる

今日の主役

問題・課題・意思決定という3語の関係と、そこが崩れたときに起きる分析の失敗パターン

なぜ重要か

分析の巧拙よりも、「何のために分析するのか」の共有不足が、せっかくの成果を無駄にする大きな原因になりやすいから

2

導入問題・課題・意思決定を、まず分ける

目標(ありたい姿) 現状(いまの姿) 問題 = 目標と現状のギャップ 課題 = ギャップを埋めるため にやるべきこと 意思決定 = 選択肢の中から 1つを選ぶこと データ分析は、意思決定を助ける手段

問題 目標と現状のギャップ。「歩行者が減った」は、まだ問題の記述にすぎない。

課題 そのギャップを埋めるためにやるべきこと。吟味せず飛ばすと失敗する。

意思決定 選択肢から1つを選ぶこと。分析は、その選択を助ける手段。

枠組みの参照:河本薫『データドリブン思考』ダイヤモンド社, 2022(意思決定プロセスの記述形式)
3
実務ケース(架空)

ケース①にぎわい市・歩行者減少への対応

中心市街地の歩行者が3年で約2割減った。
担当課は「人流可視化ダッシュボード」の構築を決め、センサーを設置して分析に着手した。

やったこと

時間帯別・曜日別の通行量を可視化。きれいな画面が完成し、庁内で好評を得た。

問い

この進め方は、どこで間違えたのだろう? 立ち止まって考えてみよう。

▮▮ 次に進む前に、どこで間違えたか考えてみよう

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実務ケース(架空)/種明かし

ケース①手段が目的化していた

何が抜けていた? 「ダッシュボードを作る」は手段。それが目的にすり替わり、埋めるべき課題の吟味が飛ばされていた。

吟味されなかった課題候補

回遊動線の改善/イベントの配置/駐車場政策の見直し/テナント誘致 —— どれを選ぶかで、必要なデータも打ち手も変わる。

処方箋:分析の前に、この一文を書く

「〔選択肢〕という選択肢の中で〔案〕を選ぶプロセスに関する、〔問い〕という課題」

記入例:回遊動線の再設計・イベント再配置・駐車場政策という選択肢の中で回遊動線の再設計を選ぶプロセスに関する、「どの区間の動線を直せば滞在が伸びるか」という課題。

参照:河本薫『データドリブン思考』ダイヤモンド社, 2022 /『データ分析失敗事例集』共立出版, 2023
5
研究ケース(架空)

ケース②新しいデータが手に入ったので…

架空の政令市から、匿名化された滞在ログの提供を受けた学生が
「とりあえずクラスタリングしてみた」。地区は5つのグループに分かれ、それらしい結果が出た。

起きたこと

クラスタは出たが、考察が書けない。「で、これが何を意味するのか」に答えられなかった。

問い

結果は出ているのに、なぜ論文にならないのだろう?

▮▮ 次に進む前に、どこで間違えたか考えてみよう

6
研究ケース(架空)/種明かし

ケース②問いなき分析だった

崩れ方 問いを立てず手法から入ると、結果が出ても意味づけができない。新規性を後付けすると、査読で前提から崩れる。

立て直し(第5回に戻る)

問いの型:④節目に置く型 —— なぜ今この都市で、この分け方を問うのか。背景の4段構えで「このままだと何がマズいか」を言語化する。

処方箋:第5回の型に戻す

① 良い問いの3条件(新規性・有用性・検証可能性)で問いを点検する

活用仮説を先に置く「誰の・どの意思決定を・どう変えるか」

例:この分類は、自治体の地域担当者支援の優先順位を決める判断を変えうるか?

立て直しの型は、第5回「問題設定と活用仮説」に対応
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横断整理失敗パターンとの対応

2つのケースは、別々の失敗に見えて根が同じ。「意思決定のために分析している」という意識が、欠けているか共有されていない。

実務ケース=手段の目的化

課題を吟味せず、ダッシュボードという手段に飛びついた。(cf.『データ分析失敗事例集』の「分析のための分析」)

研究ケース=問いなき分析

手法先行で問いが不在。第5回の落とし穴①「手法・データ先行」と同型。

共通の処方 「誰のどの意思決定を助けるのか」を先に書けば、分析の向きが定まる。

出典:『データ分析失敗事例集』共立出版, 2023 / 河本薫『データドリブン思考』ダイヤモンド社, 2022
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AIアシスタントと使うなら

プロンプト例 1(課題を書き出す)

「歩行者が2割減った状況で考えられる打ち手の選択肢を洗い出し、それぞれ『どの意思決定を助ける分析か』を1文で書いて」

プロンプト例 2(手段の目的化を疑う)

「この分析計画は、手段が目的化していないか点検して。作る前に決めておくべき『選ぶ選択肢』は何か指摘して」

※ 選択肢の吟味や課題の記述は、自分で行う。AIは抜けている観点の洗い出しや反論の相手(壁打ち)に使い、出力はそのまま採らず吟味する。

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まとめ次回予告

分析は意思決定の手段
失敗の根は「何のために分析するか」の意識の欠如・不共有にある。

第5回との対

第5回は「問いを立てる」入口。今回は「課題設定を外すとどう崩れるか」を出口から見た、対をなす回。

次回(第19回)

データ分析の失敗例② —— 実行と運用の失敗

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Work公開資料の事例を「問題/課題/意思決定」で読む

読む資料(無償公開・国交省サイトで資料名を検索)

『地域課題解決のための人流データ利活用の手引き(本編 Ver1.2版)』国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課, 令和6年3月。必要なら『人流データ利活用事例集』(同課, 同月)も。掲載のユースケースを1つ選ぶ。

基本課題

選んだ事例を「問題(目標と現状のギャップ)/課題(やるべきこと)/意思決定(選択肢から選ぶ)」で読み解いてみないか。その事例が"人流データを使うこと"自体を目的化していないかを点検し、1つの課題を「〜という選択肢の中で〜を選ぶプロセスに関する〜という課題」の形式で書き直そう。

発展課題

自分の関心地域で「同じデータでも、どんな意思決定なら本当に役立つか」を1つ構想してみよう。仕上げに、それが誰の・どの意思決定に効くかを1文で。

出典:国土交通省 政策統括官付 地理空間情報課『地域課題解決のための人流データ利活用の手引き(本編 Ver1.2版)』令和6年3月。進め方(全回共通):①問いはまず自分で考える/②AIの出力は別の方法で検算し再現性を確かめる/③Excelは数式・コードは # でメモを残す/④「作る」で終わらせず問いへの答えまで自分で出す

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