都市計画のデータ分析(全20回)
独自指標のつくり方
-現象を数式に落とす-
第 14 回 第Ⅲ部|空間分析
既存指標の限界 → 定義(数式化)→ 地図化 → 感度確認、
という流れで自分なりの指標を作れるようになる
今日の主役
現象を数式に落とし込み、指標として地図化・感度分析する一連の設計プロセス
なぜ重要か
指標の提案そのものが研究の新規性になりうるから。既存指標で測れないものを、自分の指標で測れるようにする
測れないものは、比べる・改善する・合意することができない。
現象を指標(数式)に落とすと、次の4つができるようになる。
① 比較できる 同じものさしにそろえるので、地域間・時点間を横並びで比べられる。
② 目標にできる 数値だから、改善の目標値や達成度として扱える。
③ 再現・検証できる 計算手順を残せば、他者が同じ値を再現し検証できる。
④ 展開できる 定義がはっきりしているほど、他の対象・事例にも当てはめられる。
だから「良い指標をつくる」こと自体が、研究にも実務にも効く。既存の指標で測れないものを、自分の指標で測れるようにするのが独自指標づくりである。
STEP 1 既存指標の限界を確認する
到達時間やカバー率など既存の指標だけでは、何が測れていないか(誰の・どんな状態を見落としているか)を洗い出す。
STEP 2 数式で定義する
測りたい現象を、入手できるデータで計算できる式に落とし込む(例:x分圏内に対象施設がある人口 ÷ 全人口)。
STEP 3 地図化する
定義した指標を地区・地点ごとに計算し、空間分布として可視化する。数式だけでは見えない偏りが、地図にすることで浮かび上がる。
STEP 4 感度を確認する 指標に含めたパラメータ(x分・重みなど)を変えて、結果がどれだけ動くかを確認する。1つの設定だけで結論づけない。
数式にできれば何でもよいわけではない。解釈できて・素直に増減し・使い回せる指標が「良い指標」に近づく
① 解釈性
値が大きくなった理由を想像・追跡できる。「なぜこの地区は高いのか」を後から説明できる。
② 単調性
指標が大きいほど、常にそれが表す特徴の程度も大きい。途中で意味が反転しない。
③ 一貫性
別の対象・地域に当てはめても同じように解釈できる。一つの事例専用になっていない。
この3条件を満たすほど、指標は他者に伝わり、比較や再利用に耐える。自分の指標を作ったら、この観点で点検してみるとよい。
拠点候補地に施設を誘導した場合の周辺住民のアクセス改善可能性を示す
独自指標PIAC(Possibility of Improving Access by locating Core area)を提案し、地図化した
使われている手法
既存のアクセシビリティ指標の限界の確認、独自指標PIACの数式化、空間分布としての地図化
問い
乱立を防ぎつつ弱者を救済するには、どこに拠点を誘導すればアクセス改善効果が大きいか
室岡太一・松浦海斗・谷口守 (2024)「広域にみる拠点選定手法の提案-乱立防止と弱者救済の両立を目指して-」土木学会論文集, 第80巻, 第11号, 論文ID 23-00307, DOI: 10.2208/jscejj.23-00307, 図-4.
添字の読み方 i=居住地メッシュ(そこに住む人)、j=拠点候補地、I=「最寄りが j」となるメッシュの数。個人でなくメッシュ単位で集計している点に注意。
符号をきちんと解釈する 式の上では誘導後の方が速い(Aft ≤ Bef)ため差は負になるが、論文では PIAC をアクセス改善時間(分)として示す。値が大きいほど改善量が大きい。向きを取り違えると意味が逆転する。
研究目的(乱立防止と弱者救済の両立)に沿うか。もともとアクセスが悪い地域ほど PIAC が大きく、救うべき弱者のいる場所を優先できているかを確認する。
① 「歩ける」と「歩く」の混同 供給側の指標(ポテンシャル)と行動側の指標(実際の利用実態)は別物。片方だけで現象を言い切らない。
② xの感度を確認しない 指標に組み込んだ設定値(x分・重み・閾値など)を変えると結果が大きく変わることがある。その確認を怠らない。
③ 指標の自己目的化 指標を作ること自体が目的化し、何を明らかにしたいのかを見失う。指標はあくまで問いに答えるための手段である。
④ 分母が小さいと暴れる 割合系の指標は、分母(対象の人口・件数)が小さいと少しの変動で値が跳ねる。似たデータの既存研究が何サンプル程度で学会に受理されているかを確認すると目安になる。
プロンプト例 1
「このアクセス改善可能性の指標の計算式をコードにして。入力は施設候補地と周辺のメッシュ人口・到達時間データ」
プロンプト例 2
「指標に含めたパラメータ(距離の閾値や重み)を変えたときの感度分析をして。結果がどれくらい変わるか表とグラフで見せて」
※ 指標の定義そのものをAIに任せきりにせず、何を測りたいのかという問いを自分で確定してから式に落とす。
独自指標は「限界の発見 → 数式化 → 地図化 → 感度確認」で作る。
指標の提案自体が研究の新規性になる。
復習リンク
第13回 バッファと到達圏 / 第11回 空間操作の基本
次回(第15回)
カーネル密度推定 —— 点の集まりを「面」の地図にする
基本課題
国土数値情報の施設データ(例:医療機関・福祉施設)と地域メッシュ統計の人口から、自分なりの「カバー指標」を定義して計算し(例:施設から徒歩10分圏内人口 ÷ 全人口)、立てた問いに答える。
例:施設まで歩いて行ける人はどれくらいいるか。
発展課題
指標の重み付けを変えるなど、自分なりの工夫を加える。発展では基本のデータに他のオープンデータを組み合わせてもよい(例:地価・高齢化率など)。仕上げに、①その工夫でオリジナリティが出せたか、②結果が誰の役に立ちそうか(具体的に1つ)、のどちらかを1文で。
使用データは無償のオープンデータに限る。進め方(全回共通):①問いはまず自分で考える(AIに頼る前に) ②AIの出力は別の方法で検算し、再現性を確かめる ③Excelは数式を残す/コードは # でメモを残す ④「作る」で終わらせず、問いへの答えまで自分で出す