連続教材(全20回)
- 手法の「選び方」から学ぶ、研究と実務のための分析入門 -
第 1 回|可視化チートシート — いつ、どのグラフを使うか
ねらい
ソフトの操作手順ではなく、「なぜその手法を選ぶのか」という考え方を、都市の実例で身につける。
対象
都市分野の学生、研究者、自治体・コンサルタントの実務者。統計の予備知識は仮定しない。
全体の流れ(全20回)
Ⅰ. データと可視化の基礎(1〜5)→ Ⅱ. 統計分析(6〜10)→ Ⅲ. 空間分析(11〜15)→ Ⅳ. 時系列・応用(16〜20)
「何を伝えたいか」から、適切なグラフを選べるようになる。
グラフ選びの失敗は、分析の失敗より先に起きる。
同じデータでも、見せ方ひとつで「伝わる」ことも「誤解させる」こともある。
① 比較
カテゴリ間の大小
棒グラフ
② 構成
内訳・割合
積み上げ棒/帯グラフ
③ 分布
ばらつき・偏り
ヒストグラム/箱ひげ図
④ 推移
時間変化
折れ線グラフ
⑤ 関係
2変数の関連
散布図
⑥ 空間
地理的分布
コロプレス/ポイントマップ
まず「目的」を1つに絞る。1枚のグラフに複数の目的を持たせない。
型でグラフが決まる カテゴリ変数は棒・帯グラフ、連続変数はヒストグラム・散布図、と相性がよい。
「目的」に加えて「データの型」を意識すると、選べるグラフがぐっと絞られる。
注意 軸を途中から始めると、わずかな差が大きな差に見える。
注意 円グラフを並べての比較は角度の読み取りが難しい。帯グラフなら割合の差を横並びで追える。
注意 ビン幅(区間の刻み)で印象が変わる。複数試して確かめる。
注意 縦軸を途中で切ると変化が誇張される。切る場合は波線などで明示する。
注意 相関があっても因果とは限らない。第三の変数(例:都市規模)を疑う。
注意 面積の大きい地域ほど目立って見える。実数のまま塗ると誤解を招く。
合言葉 「このグラフだけを見た人が、誤解なく読み取れるか?」
| 目的 | グラフ | 都市での例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 比較 | 棒グラフ | 地点別の平均交通量 | 縦軸は0から。並び順に意味を |
| 構成 | 積み上げ棒/100%帯 | 交通手段分担率 | 割合を比べるなら100%帯 |
| 分布 | ヒストグラム/箱ひげ図 | 通勤時間・所得の分布 | ビン幅を複数試す |
| 推移 | 折れ線グラフ | 時間帯別交通量・人口推移 | 軸の切断は明示。系列は3〜4本 |
| 関係 | 散布図 | 駅距離×徒歩割合 | 相関≠因果。外れ値に注意 |
| 空間 | コロプレス/ポイント | メッシュ人口・到達圏 | 実数でなく密度・率で塗る |
このページを印刷またはスクリーンショットして手元に。
室岡太一・堀川倖・谷口守 (2025)「居住誘導区域におけるx-minute cityの評価指標と可視化ツールの提案―アクセシビリティと交通行動の両面から―」土木学会論文集D3, 図-5.
図-5 春日部市と横須賀市の15-minute BG(横軸=到達可能性Reach-15/縦軸=実移動Act-15)
読み方 2市を同じ4象限チャートに重ね、「到達できるか(横軸)」と「実際に歩・自転車で行くか(縦軸)」のギャップを比べる。
この回とのつながり 同じ形式のチャートを都市間で並べるのも立派な可視化。
可視化指標の詳細は室岡太一・堀川倖・谷口守 (2025)「居住誘導区域におけるx-minute cityの評価指標と可視化ツールの提案」土木学会論文集, 81(20), 25-20087 で提案。
手元のデータと「何を伝えたいか」を渡せば、グラフの選定から作成まで相談できる。
ただし 最終判断は自分で。出力されたグラフも本日のチートシートで検証する。
グラフは「目的」で選ぶ。
比較・構成・分布・推移・関係・空間 —— まず1つに絞る。
今日の要点
チートシート(p.13)を手元に置き、作る前に「目的はどれか」を自問する。
次回(第2回)
記述統計と分布を読む —— グラフでつかんだ傾向を、数字で裏付ける
基本課題
自分で好きな問いを立てたうえで(例:自分の市区町村は人口が減っているか)、e-Statでお好きな市区町村・都道府県のデータを探し、今日の6分類から合うグラフでその問いに答える。
発展課題
基本課題のグラフに、比較対象や切り口を1つ加える。仕上げに、①その工夫で分析にオリジナリティを出せたか、②誰の役に立ちそうか(例:自治体の担当者、同じ地域に住む人)、のどちらかを1文で。
使用データは無償のオープンデータ(e-Stat等)に限る。進め方(全回共通):①問いはまず自分で考える(AIに頼る前に)/②AIの出力は別の方法で検算し再現性を確かめる/③Excelは数式を残す・コードは # でメモを残す/④「作る」で終わらせず問いへの答えまで自分で出す。